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COVID-19 measures and the Japanese Constitution

[version 1; peer review: 1 approved, 1 approved with reservations]
PUBLISHED 23 Mar 2021
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OPEN PEER REVIEW
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Abstract

Since March 2020, the Act on Special Measures for Pandemic Influenza and New Infectious Diseases Preparedness and Response has been a significant statute in dealing with COVID-19 in Japan. The Act mandates requests and orders for business suspension and shortened business hours, as well as stay-at-home requests. Although there have been no penalties as of January 2021, these requests and orders limit freedom of movement and establishment, guaranteed rights under the Japanese Constitution. This article poses the following research question: “Does the Japanese Constitution allow measures against COVID-19 such as requests and orders for business suspension and shortened business hours, and stay-at-home requests?” It also asks: “Are measures with penalties allowed by the Constitution?” This paper introduces constitutional concepts that guarantee or limit individual freedom. Concepts that guarantee individual freedoms include freedom of establishment and movement. These freedoms derive from the constitutional values of freedom to choose one’s occupation and choose and change one’s residence (Art. 22) and the right to own or hold property (Art. 29). Concepts that limit individual freedom include the right to life (Art. 13), welfare rights and public health (Art. 25), and public welfare (Art. 13). Individual freedom that threatens right to life, welfare rights and public health, and public welfare may not be guaranteed. This paper argues that since measures against COVID-19 are considered public welfare, the Constitution allows the limiting of freedom of establishment and movement. Furthermore, from the perspectives of the right to life, welfare rights, and public health, the government is responsible for reducing the risk to life from COVID-19. It also argues that the Constitution permits measures with penalties, while proportionality needs to be considered.

Keywords

新型コロナウイルス感染症, 日本国憲法, 新型インフルエンザ等対策特別措置法, 人権, 営業の自由, 移動の自由, 生命権, 生存権, 公衆衛生, 公共の福祉, COVID-19, the Constitution of Japan, the Act on Special Measures for Pandemic Influenza and New Infectious Diseases Preparedness and Response, human rights, freedom of establishment, freedom of movement, right to life, welfare rights, public health, public welfare

はじめに

2020 年から 2021 年にかけて、世界各国で新型コロナウイルス感染症 (以下、COVID-19) の感染確認者数が増加している。2021 年 1 月の時点で、日本を含め多くの国では COVID-19 のワクチンがまだ承認されておらず、今後確保できるワクチン数、変異したウイルスへのワクチンの効力等は不明である。そこで各国政府は感染拡大予防のために、様々な対策を採っている。例えば各国の COVID-19 対策を分析している Our World in Data によれば、2020 年 12 月 31 日現在、124 の国や地域で外出自粛要請や外出制限などの措置が取られている1

日本においては、2020 年 3 月以来「新型インフルエンザ等対策特別措置法 (以下、特措法) 」が COVID-19 対策の中心的な役割を果たしてきた。同法に基づき、休業や営業時間短縮の要請・指示、外出自粛要請が行われてきた。2021 年 1 月時点で、罰則はないものの、これらの要請・指示には日本国憲法が保障する営業の自由や移動の自由を制限する側面がある。その一方で、COVID-19 対策が憲法に規定される公共の福祉に適合しており、自由の制限はやむを得ないとの見解もあり得る。

2021 年 1 月現在、日本の COVID-19 対策の憲法上の論点について包括的に検討した論文は限られている2。その一つが、江藤祥平による論文である3。江藤は「公共の福祉」と「個人の人権」という図式を提示し、感染症対策のための私権の制限の合憲性について詳細かつ批判的に検討している。同論文は憲法における公衆衛生、表現の自由、営業の自由、個人の尊厳、自己決定権にとどまらず、国際人権法における健康への権利にも言及しており、多角的に COVID-19 対策について検討を行っている。しかし、江藤論文における分析に加えて、以下の二点の検討が必要である。第一に、憲法 13 条に規定される生命権を検討する必要がある。通説では生命権について議論されてこなかったが、COVID-19 の感染拡大は人権の基盤である生命への脅威となり、生命権の概念を含めて COVID-19 対策を検討し直す必要がある。第二に、「公共の福祉」と「個人の人権」という分類の妥当性を再検討する必要がある。江藤の述べる通り、この二項対立は憲法学では「お馴染みの図式」である4。しかし COVID-19 対策においては、公共の福祉と人権でなく、人権規範同士が衝突することも想定される。例えば COVID-19 が生命権への脅威であるとすれば、感染拡大予防策により生命権の保障が見込まれる一方で、江藤が「個人の人権」とする自由権的な権利が制限される可能性がある。すなわち、「公共の福祉」と「個人の人権」でなく、権利の性質を考慮しつつ、「個人の自由を保障する概念」及び「個人の自由を制限しうる概念」に整理し直し、COVID-19 対策の憲法上の論点を再検討する必要性がある。

本稿のリサーチ・クエスチョンは、「COVID-19 対策としての休業や営業時間短縮の要請・指示及び外出自粛要請に、憲法上の制約もしくは要請はあるか」である。また、COVID-19 の感染拡大により、罰則のある措置を盛り込んだ特措法の改正が議論されている 2021 年 1 月現在の状況を踏まえ5、「罰則のある措置は憲法上認められるか」との論点も検討する6

なお、本稿は特措法に基づく対応に着目して検討する。特措法以外にも、感染症法上の指定感染症7、検疫法上の措置、予防接種法上のワクチン等の論点があるが、これらは別稿に譲りたい。その上で、本稿は特措法に基づく対策の総論的な論点の整理に留め、各論的な議論の詳細には立ち入らない。例えば首長による要請・指示については、行政法の視点を導入する必要があるが、論点が散逸するため詳細には扱わない。また、本稿は 2021 年 1 月 10 日以前の情報を基盤としており、COVID-19 の状況、政府の対応は刻一刻と変化することにご留意いただきたい。

第 1 節では、特措法に基づき採られた COVID-19 対策を紹介する。第 2 ・ 3 節は、COVID-19 対策に関連する、個人の自由を保障する概念及び個人の自由を制限しうる概念を指摘する。第 4 節では、上記の概念を COVID-19 対策に適用し、COVID-19 対策を検討する際の憲法的論点を整理する。

I. 特措法と COVID-19 対策

2021 年 1 月現在、日本における COVID-19 対策の基盤となっているのは、特措法である。特措法は、2009 年に新型インフルエンザが世界的に流行し、医療資源が逼迫したことを契機として、2012 年に成立し、2013 年に施行された8。特措法の対象は新型インフルエンザ、再興型インフルエンザ及び新感染症である9。ここで重要なのは、特措法の対象となる感染症は、国民の多くが免疫を獲得していないため、急速な蔓延により国民の生命及び健康に重大な影響を与える恐れがある点である10。そのために、既知の感染症より強い措置が必要となる。

当初、特措法は COVID-19 に適用されず、感染症法及び検疫法を基盤とした対応が想定されていた11。特措法の特徴は、緊急事態宣言や外出自粛要請、施設の使用制限要請・指示が可能になることであるが、厚生労働省幹部によれば、日本で初めて COVID-19 の感染者が確認された 2020 年 1 月時点では特措法の適用が必要であるとの認識は共有されていなかったようである12。同年 2 月 1 日に、COVID-19 は感染症法に基づく二類相当の「指定感染症」とされ、感染の疑いがある患者の入院措置が可能になった13。また同日、COVID-19 が検疫法上の「検疫感染症」となり、強制力を伴う入国時の診察・検査が可能になった14

しかし同年 2 月 21 日に国内感染者数が 100 人を超えると社会的な緊張が高まり、2 月 27 日には当時の安倍首相が、感染拡大抑制のために必要な法案を早急に準備するよう指示した15。そして 3 月 13 日に特措法が改正され、翌 14 日より COVID-19 が特措法の対象となった16

特措法は二段階構造により、新型感染症のまん延予防を試みている17。第一段階は政府対策本部の設置である。従来のインフルエンザより症状が深刻である新型感染症が発生した際に、政府対策本部、都道府県対策本部が設置される18。都道府県対策本部長となる都道府県知事は、特措法 24 条 9 項に基づき、団体、個人に必要な協力を要請する事ができる。

第二段階が緊急事態宣言である。首相は、感染症が全国的なまん延により、かつ国民社会、国民生活に甚大な影響を及ぼす場合に緊急事態宣言を発出し、緊急事態措置を実施すべき期間、区域を指定する19。特措法は緊急事態宣言発出時の専門家の役割に触れていないが、首相が専門家に諮問することが想定されている20。緊急事態措置の対象となった地域では、都道府県知事が不要不急の外出自粛要請及び施設使用制限の要請を行う事ができる21。施設の使用制限要請に応じない場合、知事は施設管理者に法的義務を課す指示を行うことができる22。これらの要請・指示に従わなくとも罰則はない。しかし、45 条に基づく施設使用制限が要請・指示された場合は、その旨が公表される23。公表が可能になることが、緊急事態宣言発出による大きな変化である。しかし、政府対策本部が設置されていれば都道府県知事は必要な協力を要請できるため、緊急事態宣言の発出は社会的に大きなインパクトがあるものの、要請の法的な効力が変わるわけではないことには留意が必要である24

緊急事態措置の対象となった地域では、都道府県知事が要請・指示の主体となるが、政府が定める基本的対処方針 (特措法 18 条) に沿って要請・指示を行うこととなる25。また、新感染症対策であっても、国民の自由や権利への制限は最低限であるべきであると規定されている26

2020 年 3 月 14 日に COVID-19 が特措法の対象となると、同法 15 条に基づく政府対策本部が設置され27、各都道府県知事が同法 24 条に依拠して、団体・個人への要請が可能になった。同月には大阪府や東京都、神奈川県、埼玉県、千葉県、山梨県等が外出自粛を要請した28。感染確認者数の増加と社会的危機感の高まりを受け29、2020 年 4 月 7 日から 5 月 25 日にかけて緊急事態宣言が発出された30。緊急事態措置の対象となった都道府県では特措法 45 条に基づく不要不急の外出自粛要請、施設使用制限の要請・指示が可能になった。実際に全ての都道府県で同法 45 条 1 項に基づいた不要不急の外出自粛が要請され、21 都道府県で同法 45 条 2 項に基づき、休業や営業時間短縮要請をはじめとする施設の使用制限が要請され、施設管理者が公表された31。また、5 県ではさらに同法 45 条 3 項に基づく指示及び同法 45 条 4 項に基づく公表が行われた32。緊急事態宣言解除後も、同法 24 条 9 項を根拠として、断続的に外出自粛要請を行った都道府県がある33。また、2020 年 4 月の緊急事態宣言発出後は、解除後も含め、散発的に同法 24 条 9 項を根拠とした休業や営業時間短縮の要請を出している都道府県もある34。また、2020 年末から感染確認者数が 1 日に 3000 人を超える日が続き、重症者数も多いため35、2021 年 1 月 7 日に、1 月 8 日から 2 月 7 日を期間とする緊急事態宣言が発出された36。東京都、神奈川県、千葉県、埼玉県が緊急事態措置の対象とされている37

II. 個人の自由を保障する概念

罰則を伴わないとはいえ、特措法による休業や営業時間短縮要請・指示、外出自粛要請は、国家権力による市民の自由を制限する要請・指示である。国家による介入の回避を重要視する近代立憲主義を基盤とし38、また大日本帝国憲法下での国家権力の強大化を経験した後に制定された日本国憲法の視点からは、市民の自由の制限が重要な論点となりうる。本節では、日本国憲法が保障する個人の自由として、営業の自由及び移動の自由についての判例や学説を検討する。

休業や営業時間短縮の要請・指示は、営業の自由を制限しうる。営業の自由に関連する条文は、憲法 22 条、29 条、13 条である。営業の自由自体を保障する文言は憲法に存在しないが、判例、通説によれば憲法 22 条の職業選択の自由により営業の自由が保障されると考えられている39。また、 22 条及び 29 条に規定される財産権の双方により営業の自由が保障されるとの見解もある40。その上で、憲法 13 条に規定される人格権と関連して営業の自由を位置付けることもできる。薬事法違憲判決は、職業が「個人の人格的価値とも不可分の関連を有する」としており41、学説でも営業の自由と人格的価値の関連が指摘されている42。人格的価値は憲法 13 条から導出できる人格権と関連しており43、営業の自由が人格権の視点からも重要であることを示唆している。

外出自粛要請は、移動の自由を制限しうる。関連する条文は憲法 22 条及び 13 条である。移動の自由は、居住・移転の自由を規定する憲法 22 条に基づき保障されると考えられている44。その上で、移動の自由は人の活動領域を拡大し、人格形成に寄与するとの指摘もあり45、憲法 13 条を基盤とする人格権として移動の自由が捉えられる可能性もある。

III. 個人の自由を制限しうる概念

憲法には個人の自由を保障する概念がある一方で、個人の自由を制限しうる概念も存在する。生命権、生存権・公衆衛生、公共の福祉の脅威となる場合、自由は制限されうる。

第一に、生命権の脅威となる自由は制限されうる。生命権の根拠は憲法 13 条である。日本国憲法における生命権は、1987 年に櫻田が提唱し46、石村47、ウィリアムズ48、小林49が議論を深め、山内が 2000 年に体系化を試みた50。しかし通説では、憲法 13 条の「生命、自由及び幸福追求に対する国民の権利」が幸福追求権を意味するとされ51、判例も憲法 13 条が生命権を規定するとの理解を示しておらず52、生命権については十分議論されてこなかった53。しかし、生命権は以下の二つの理由から、幸福追求権及び人格権とは別個に理解されるべきである。第一に、条文の文理上の解釈である。生命に対する権利、自由に対する権利及び幸福追求に対する権利は並列で表記されているため、生命に対する権利が幸福追求に対する権利に包含されるべきではない54。第二に、権利の性質である。生命の維持は幸福追求権を含むあらゆる権利の前提であり、「もっとも基本的な人権」と考えられるべきである55。生命への権利は、国王の圧政からの解放という近代憲法成立の文脈では、「国家に殺されない権利」が中心的な議論であり、生命権においても主に国家の介入を否定する自由権的な文脈で議論されてきた56。しかし、COVID-19 への対応が必要となる今日においては、国家の積極的な介入を要求する社会権的な視点でも生命権をとらえる必要があり、国家による生命の保護義務も含まれるべきである57。COVID-19 による死者は 2021 年 1 月 10 日現在、日本で 4043 人確認されており58、COVID-19 が生命権の脅威となることを示している59。よって、生命権保障の手段として COVID-19 対策を捉えることができる。

第二に、憲法 25 条の生存権の保障・公衆衛生の保全を目的とした自由の制限は認められうる。日本では 2021 年 1 月時点で、COVID-19 に有効なワクチンは未承認であり、また 2020 年終盤から確認されている変異したウイルスへのワクチンの効果も明らかでない60。よって現状では、「健康で文化的な最低限度の生活を営む権利を有する」とする憲法 25 条を根拠として、ワクチン接種以外の感染症対策が必要とされよう。通説、判例によれば、憲法 25 条に基づく具体的な請求権は認められていない61。従来、憲法 25 条と請求権については、生活保護などの給付請求権について議論されてきたが、通説は給付請求権が認められない理由として、国民の生存権保障のための具体的な方法が憲法では明らかでないため、立法府の判断に委ねられるとする見解62、生存権の内容が抽象的であり、内容を具現化する法律が必要であるとの見解が示されてきた63。しかし、具体的請求権を認めないことは、生存権が憲法に規定されている意味に大きな疑問を生じさせる。また法学や司法は、憲法の視点から生存権を検討すべきであり、立法への過剰な委任は望ましくない64。また、抽象的な規定を具体化するのが法学、司法の役割であると考えられ、憲法規定の抽象性を根拠として具体的請求権が否定されるべきではない65。よって、生存権の内容を法学・司法が具体化し、憲法を基盤とした具体的請求権が認められるべきである。なお、従来では生活保護などの給付請求権が議論されてきたが、生存権保障の方策は給付に限らない。憲法 25 条 2 項は、「国は、すべての生活部面について、社会福祉、社会保障及び公衆衛生の向上及び増進に努めなければならない。」と規定している。よって、「公衆衛生の向上及び増進」のために必要な方策を請求することも、憲法 25 条に基づき可能なはずである。上記の請求がなされた際には、公衆衛生の保持を目的とした個人の自由の制限が正当化されうる。

第三に、憲法 13 条に規定されている「公共の福祉」は、個人の自由を制限する根拠となる。同条は、国民の権利が「公共の福祉に反しない限り、(中略)最大の尊重を必要とする」と規定しており、公共の福祉に適合しない場合、自由・人権が制限されうる。判例は公衆浴場法事件や薬局距離制限事件等を通して、公共の福祉概念に国民の保健・環境衛生が含まれるとしてきた66。また学説でも、他者の権利・利益確保の文脈で、公共の福祉に公衆衛生が含まれると考えられており67、これは妥当であろう。よって、公衆衛生の保全を目的とする COVID-19 対策は公共の福祉に含まれ、個人の自由の制限が正当化されうる。なお日本には、感染力が低いと認識されていたにもかかわらず、公共の福祉の名の下にハンセン病患者の隔離が行われた歴史があり68、公共の福祉と感染症の関係性については慎重な検討が必要である。

IV. COVID-19対策への適用

以上では、日本国憲法における個人の自由を保障する概念及び個人の自由を制限しうる概念を紹介した。本節ではそれぞれの概念を COVID-19 対策に適用し、個人の自由が保障されるべきか、もしくは COVID-19 対策のための自由の制限が認められるべきかを検討する。

まず、2021 年 1 月現在の罰則のない要請が憲法上認められるかを検討する。営業の自由及び移動の自由は、居住、移転及び職業選択の自由を規定する憲法 22 条、財産権を規定する 29 条、人格権を規定する 13 条が関連している。これらの人権は公共の福祉の制約を受けるが、権利の性質により制約の程度が異なると考えられている。判例、通説では、精神的自由についてはより厳格な基準で公共の福祉を捉え、経済的自由についてはより緩やかな基準で公共の福祉を捉える、「二重の基準論」が有力になっている69。経済的自由が精神的自由と比較して社会的影響が大きいことに鑑みると、経済的自由に対してより強度な公共の福祉による制約を課すことは妥当である。営業の自由及び移動の自由の根拠となる居住、移転及び職業選択の自由、財産権は経済的自由に含まれると考えられるため70、精神的自由権よりも緩やかな基準で公共の福祉を捉え、公共の福祉による一定程度の自由の制約が許容される。COVID-19 対策は公衆衛生の保全を目的としたものであり、公衆衛生の保全は公共の福祉に適合すると考えられるため、営業の自由及び移動の自由を経済的自由として捉えれば、その制限は正当化される。

なお、営業の自由及び移動の自由を人格権の一部として位置付ければ、公共の福祉がより厳格に捉えられ、COVID-19 対策よりもこれらの自由が優先されるであるとの議論もありうる。しかし、営業の自由及び移動の自由に人格権の側面が認められるとしても、精神的自由である人格権を基盤としてこれらの自由を認めることは困難である。第一に、営業の自由と「人格的価値」との関係性を認めた薬事法違憲判決では、営業の自由と人格的価値としての関連性に言及した後に、職業は「社会的相互関連性が大きい」ため、「公権力による規制の要請がつよ」いとしている71。よって、営業の自由の主な規範的基盤は経済的自由権であり、営業の自由を COVID-19 対策より優先させることは困難である。第二に、移動の自由もその社会的影響を考慮すべきである。確かに従来、個人の移動の社会的な影響は限定的に捉えられてきた。しかし COVID-19 には無症状者が存在し72、感染者が明らかでない。そのため、移動の制限が COVID-19 の感染拡大予防のために重要だと考えられる。このような社会的な影響があることに鑑みれば、COVID-19 対策としての移動の自由の制限は許容される。

その上で、生命権、生存権・公衆衛生の視点からすれば、COVID-19 による死のリスクを減らす方策を国家が採る必要がある。特に生命権は人権の基盤となるため、本質的にその保障が最も重要である。よって、自由が制限されたとしても公衆衛生の保全による生命権、生存権の保障が必要である。検討すべき点として、休業や営業時間短縮の要請・指示及び外出自粛要請が、COVID-19 対策に必要であるのか、という問題が挙げられる。筆者は感染症対策の専門家ではないため、信頼に足る自らの見解を示すことはできない。しかし、2020 年 12 月時点で新型コロナウイルス感染症対策分科会は、主な感染源として飲食の場が挙げられるとの見解を示しており73、飲食店の休業や営業時間短縮の要請・指示には一定の意味があると考えられる。また、人が COVID-19 感染拡大の媒体となるため、移動の自粛要請にも一定の有効性があると考えられる74

最後に、罰則を伴う措置について検討する。日本国憲法は罰則のある外出制限、休業や営業時間短縮の措置を許容していると考えられる。COVID-19 対策が公共の福祉に適合すれば、罰則を禁止する根拠を見いだすことは困難だからである。とはいえ、憲法が罰則のある休業や営業時間短縮の要請・指示を求めているわけでもない。すなわち、罰則の有無は立法に委ねられている。しかし罰則を導入する際には、行政法における比例原則が適用される必要がある。比例原則の内容として、目的適合性の原則、必要性の原則、狭義の比例性の原則が挙げられる75。よって、罰則は必要最小限で、かつ法益に与える影響が不釣り合いであってはならない。

おわりに

本稿は、COVID-19 対策に関わる憲法上の論点を「個人の自由を保障する概念」及び「個人の自由を制限しうる概念」に整理し直した上で、COVID-19 対策が公共の福祉に適合すると捉えられ、特措法に基づく休業や営業時間短縮の要請・指示、外出自粛要請に憲法上の制約はないと論じた。その上で、生命権・生存権の議論を基盤として、国家による積極的な COVID-19 対策が求められると述べた。また、比例原則を考慮する必要はあるものの、憲法は罰則のある措置を許容しているとまとめた。よって、罰則のない特措法に基づく措置は、憲法による要請でなく、立法府の判断により規定されたものである。

最後に今後の検討課題として、2021 年 1 月以降の導入が検討されている罰則の意義と、ポスト・コロナ時代の国家観と憲法を挙げる。第一に、罰則導入の意義を検討する必要がある。罰則導入を検討する一義的な目的は、感染拡大防止のための休業もしくは営業時間の短縮の徹底であると考えられる76。その上で、罰則の社会的な意義についても検討する必要がある。従来の特措法には罰則規定が存在しないが、2020 年 4 月の緊急事態宣言発出以降、営業自粛要請を遵守していないと思われる店舗を私人が攻撃する、「コロナ自警団」や「自粛警察」と呼ばれる現象が起きた77。心理学者の榎本博明は、罰則を課した欧米では、自由の制限への不満の矛先が政府に向かったのに対し、日本では罰則のない自己犠牲を求める要請であったために、不満の矛先が要請を遵守しなかった市民に向かったと述べている78。「コロナ自警団」の現象は、公的な罰則がなくとも社会的な制裁が課されうることを示している。社会的な制裁が横行することは、「正統な物理的暴力行使の独占」が期待・要求される近代国家において望ましくないであろう79。罰則導入により感染拡大防止を徹底できるのか、また社会的制裁を減少させることができるのか、を今後分析する必要がある80

第二に、ポスト・コロナ時代の国家観と憲法について検討する必要がある。従来日本の憲法学は、大日本帝国憲法下の経験から自由の制限に抑制的な立場をとってきた81。また特措法も、2012 年の成立以降罰則規定が不在であった。これらの前提には、国家の権限強化への警戒感がある82。しかし COVID-19 は、この国家観に変化をもたらす可能性がある。生命権保障のためには国家による積極的な COVID-19 対策が求められる。また、国民が国家の権限強化を求める動きもある。2020 年 6 月に NHK が実施した世論調査では、62% が外出禁止や休業を強制できる法改正が必要であると回答している83。また 2021 年 1 月に NHK が実施した世論調査では、48% が特措法への罰則の明記に賛成と回答しており84、罰則のある措置に肯定的な意見が一定数あることを示している85。世論が実際にどの程度罰則のある措置を望んでいるのかは明らかでない。国家に強力な権限を認めることには全体主義につながるとの懸念があり86、国民が国家による罰則を望む現象が、近代立憲主義の視点から危険視されるのは当然である。しかし未知のウイルスに恐怖を感じ、その克服のために強力な権限を求めるのは、社会の自然な反応ということもできよう。全体主義の歴史に学び、政治による恣意的な権力の集中を避けつつ、科学者の専門知を基盤として、国家が生命権保障のために必要な措置を検討する必要がある。感染症対策における国家の役割、憲法の役割については、今後さらなる議論が求められる。また、COVID-19 は憲法が直面する新たな問題である点も重要である。従来想定されてきた「緊急事態」における「敵」は、人間により構成される国家であり、「敵」の認定には政治的判断が不可避である。その一方で、COVID-19 等感染症対策における「敵」はウイルスであり、科学的な専門知により根拠づけられる87。憲法(学)が必ずしも想定してこなかった新たな、かつ人間社会に与える影響が巨大な「敵」が出現する中で、憲法学が描く国家観を今後再検討する必要がある。

COVID-19 は、大規模かつ長期化する感染症と向き合うことを迫っており、日本国憲法にとって新たな課題である。新型コロナウイルスを含む新興の人獣共通感染症は増加傾向にあるとの指摘もあり88、今後も日本社会は感染症と向き合う必要がある89。憲法の枠組みに基づき法的な検討を行うとともに、日本社会の特性も鑑みて、有効な感染症対策により生命権を保障する、新たな国家観を構想していく必要がある。

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Akiyama H. COVID-19 measures and the Japanese Constitution [version 1; peer review: 1 approved, 1 approved with reservations] F1000Research 2021, 10:230 (https://doi.org/10.12688/f1000research.50861.1)
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Reviewer Report 26 Apr 2021
Masahiro Sogabe, Graduate School of Law, Kyoto University, Kyoto, Japan 
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本論文は、「COVID-19 対策としての休業や営業時間短縮の要請・指示及び外出自粛要請に、憲法上の制約もしくは要請はあるか」をリサーチクエスチョンとして、憲法学の通説に対する批判も交えつつ、この問いに取り組んでいる。

本査読者の全般的な評価は、基本的にはすでに査読コメントを残している山元教授と同様であるが、以下の4点について特に指摘しておきたい。

第1に、筆者は、「公共の福祉」対「個人の人権」という通説的な問題の捉え方に代えて、「個人の自由を保障する概念」対「個人の自由を制限しうる概念」という捉え方を用いるべきだとする。しかし、通説も、「公共の福祉」は抽象的な概念ではなく、具体的な対抗利益を明確にし、その都度の「公共の福祉」の内実を明らかにすべきことを要求しているのであるから、こうした問題設定の修正が何をもたらすのかは明らかではない。

第2に、筆者は、生存権が具体的な権利であることを強調するが、そこで指摘されている論拠は通説も織り込み済みのものであるはずであり、にもかかわらず通説が抽象的権利説(その内実にも実は注意が必要であるが)にとどまっている理由を乗り越えることができていない。また、本論文の主題との関係で、生存権が具体的権利であるとすることによっていかなる帰結をえようとしているのか、明らかでない。
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Sogabe M. Reviewer Report For: COVID-19 measures and the Japanese Constitution [version 1; peer review: 1 approved, 1 approved with reservations]. F1000Research 2021, 10:230 (https://doi.org/10.5256/f1000research.53950.r83082)
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  • Author Response 14 Sep 2021
    Hajime Akiyama, Faculty of Humanities and Social Sciences, University of Tsukuba, Tsukuba, 305-8571, Japan
    14 Sep 2021
    Author Response
    曽我部先生

    重要なコメントをいただき、感謝いたします。

    第一に「公共の福祉」と「個人の人権」の分類を、「個人の自由を保障する概念」及び「個人の自由を制限しうる概念」に整理し直す意義についてコメントをいただきました。新たな分類を構想した背景には、「公共の福祉」と「個人の人権」の分類では、人権概念の十全な理解が困難なのではないかとの問題意識があります。人権と自由はほぼ同一視されてきた傾向がありますが、人権を十分に理解するためには、自由権だけでなく、社会権も含めて人権を捉える必要があると考えております。感染症対策との関連では、自由の制限を人権の制約原理と捉えられる公共の福祉でなく、憲法の一義的な価値である人権の一部として位置付けることも可能であるはずです。こうした新たな捉え方により、自由を相対化し、人権のより深い理解を目指したいと考えております。

    第二に、具体的権利説への批判を乗り越えることができていないとのご指摘をいただきました。第2版では、抽象的権利説から具体的権利説に投げかけられている批判を踏まえ、具体的権利説の妥当性を論じました。COVID-19対策との関連では、具体的権利説により、営業や移動の自由の制限が感染対策に有効であれば、こうした措置を採ることが生存権の視点から求められる可能性があると考えています。

    第三に、本論文を基盤とした具体論の展開についてコメントをいただきました。生命権や生存権の具体的権利説を基盤とすれば、感染拡大が止まらない中、科学的知見に依拠したさらに有効な手段による感染拡大の予防が求められると考えております。しかし、2021年2月の特措法改正により導入された罰則の評価など、十分に検討できていない様々な論点がございますので、今後の研究課題としてまいります。

    第四に、先行研究への言及が不十分であるとのご指摘をいただきました。十分に整理できておりませんでしたので、第1版脱稿後に発表された論文も含め勉強させていただき、本論文との関連を検討いたしました。

    上記の論点を踏まえ、第2版を執筆いたしました。
    貴重なコメントを頂き、ありがとうございました。
    Competing Interests: No competing interests were disclosed.
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  • Author Response 14 Sep 2021
    Hajime Akiyama, Faculty of Humanities and Social Sciences, University of Tsukuba, Tsukuba, 305-8571, Japan
    14 Sep 2021
    Author Response
    曽我部先生

    重要なコメントをいただき、感謝いたします。

    第一に「公共の福祉」と「個人の人権」の分類を、「個人の自由を保障する概念」及び「個人の自由を制限しうる概念」に整理し直す意義についてコメントをいただきました。新たな分類を構想した背景には、「公共の福祉」と「個人の人権」の分類では、人権概念の十全な理解が困難なのではないかとの問題意識があります。人権と自由はほぼ同一視されてきた傾向がありますが、人権を十分に理解するためには、自由権だけでなく、社会権も含めて人権を捉える必要があると考えております。感染症対策との関連では、自由の制限を人権の制約原理と捉えられる公共の福祉でなく、憲法の一義的な価値である人権の一部として位置付けることも可能であるはずです。こうした新たな捉え方により、自由を相対化し、人権のより深い理解を目指したいと考えております。

    第二に、具体的権利説への批判を乗り越えることができていないとのご指摘をいただきました。第2版では、抽象的権利説から具体的権利説に投げかけられている批判を踏まえ、具体的権利説の妥当性を論じました。COVID-19対策との関連では、具体的権利説により、営業や移動の自由の制限が感染対策に有効であれば、こうした措置を採ることが生存権の視点から求められる可能性があると考えています。

    第三に、本論文を基盤とした具体論の展開についてコメントをいただきました。生命権や生存権の具体的権利説を基盤とすれば、感染拡大が止まらない中、科学的知見に依拠したさらに有効な手段による感染拡大の予防が求められると考えております。しかし、2021年2月の特措法改正により導入された罰則の評価など、十分に検討できていない様々な論点がございますので、今後の研究課題としてまいります。

    第四に、先行研究への言及が不十分であるとのご指摘をいただきました。十分に整理できておりませんでしたので、第1版脱稿後に発表された論文も含め勉強させていただき、本論文との関連を検討いたしました。

    上記の論点を踏まえ、第2版を執筆いたしました。
    貴重なコメントを頂き、ありがとうございました。
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176
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Reviewer Report 07 Apr 2021
Hajime Yamamoto, Keio University, Tokyo, Japan 
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本論文は、Covid-19の感染拡大に対応して「新インフルエンザ等対策特別措置法」に基づいて行われた政府による様々な要請や指示を、「憲法の枠組み」で捉えたとき、従来の枠組が不十分だと著者が評価する部分を摘示し、よりよい、と本論文著者が考える憲法学の枠組を提供しようとするものである。

Covid-19をめぐる問題は、憲法学にとっても最新かつ最重要な諸問題を提起しており、本論文はこのような課題に迅速に応えて執筆されたものである。

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Yamamoto H. Reviewer Report For: COVID-19 measures and the Japanese Constitution [version 1; peer review: 1 approved, 1 approved with reservations]. F1000Research 2021, 10:230 (https://doi.org/10.5256/f1000research.53950.r82364)
NOTE: it is important to ensure the information in square brackets after the title is included in all citations of this article.
  • Author Response 21 Apr 2021
    Hajime Akiyama, Faculty of Humanities and Social Sciences, University of Tsukuba, Tsukuba, 305-8571, Japan
    21 Apr 2021
    Author Response
    山元先生

    有益なご指摘をいただき、感謝申し上げます。

    第一に、生命権や生存権を「個人の自由を制限しうる概念」と捉えることについて、従来「公共の福祉」の利益と考えられてきた概念を「人権」という言葉に言い換えたにすぎないと指摘される可能性をお示しいただきました。筆者は、まさにこの捉え方の変化にこそ大きな意味があると考えております。従来「人権≒自由」と捉えられてきたように思いますが、自由以外の人権の側面を改めて示すことで、山元先生も言及されているように「従来の近代立憲主義的人権概念を乗り越え」る、新たな人権概念を構想する基盤となると存じます。そのため、「個人の自由を制限しうる概念」を「人権」概念に組み込むことには一定の意味があると考えております。

    第二に、人権が個人の自由保障と自由制限双方の正反対な機能を含むと捉えることにより、人権概念が不安定になるとの批判を受ける可能性をご指摘いただきました。筆者は、COVID-19という自然の脅威により、自由を基盤とする従来の人権概念の限界が明らかになっていると考えており、人権の捉え直しが必要であると考えています。そのため、人権概念が不安定になる可能性はありますが、新たな人権概念を検討することで、より包括的な人権概念を構築することができると考えます。

    第三に、前半部分で人権概念の大転換を主張しているのにもかかわらず、後半部分における具体的な考察は、従来の憲法学と大きく変わらないのではないか、とのご指摘をいただきました。本論文の主眼は、日本国憲法の条文を基盤として自由と人権の概念を切り離し、人権概念を捉え直すことにありました。そのため、合憲性判定に関する基準や原則については十分に検討できておりません。人権概念の捉え直しにより、これらの基準や原則を捉え直す必要があるかについては慎重な検討が求められるように思いますが、今後の検討課題とさせていただきます。

    第四に、COVID-19対策とテロ対策は同様に捉えられるか、との論点をご提示いただきました。「おわりに」にも記述しているとおり、本論文は感染症対策における「敵」が、科学的な専門知により認定される自然であると捉えています。従来は、政治的判断が不可避となる人間集団(国家やテロリストを含む)が「敵」として想定されており、COVID-19対策とテロ対策は本質的に異なると考えます。そして、従来想定されてこなかった自然が新たな「敵」となっているため、新たな人権理解の必要性を論じております。テロ対策の捉え方については、今後検討を重ねて参ります。

    第五に、社会的プレッシャーの評価について言及していただきました。この点については、COVID-19対策に法の役割を見出すならば、社会的プレッシャーについては否定的な立場を取らざるを得ません。社会的プレッシャーに法や司法が対応できる余地は限定的だからです。法や司法の意味は、規範が事前に示され、司法による救済の可能性があることだと考えます。社会的プレッシャーについてはこうした法の効果が十分に見込めないため、少なくとも理論的には望ましくありません。とはいえ、曽我部教授、江藤教授の議論にもあるように、日本の社会的現状を踏まえた上で望ましいあり方を模索するのは、極めて重要です。その一方で今後も様々な社会問題が起きる中で、法や司法が十分に役割を果たせる基盤を構築する必要があると感じております。具体的な方法や、その妥当性については大きな論点となりますので、今後の課題とさせてください。

    ご指摘いただきました論点につきましては、今後の論文執筆の参考にさせていただきます。
    貴重なコメントを頂き、ありがとうございました。
    Competing Interests: No competing interests were disclosed.
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  • Author Response 21 Apr 2021
    Hajime Akiyama, Faculty of Humanities and Social Sciences, University of Tsukuba, Tsukuba, 305-8571, Japan
    21 Apr 2021
    Author Response
    山元先生

    有益なご指摘をいただき、感謝申し上げます。

    第一に、生命権や生存権を「個人の自由を制限しうる概念」と捉えることについて、従来「公共の福祉」の利益と考えられてきた概念を「人権」という言葉に言い換えたにすぎないと指摘される可能性をお示しいただきました。筆者は、まさにこの捉え方の変化にこそ大きな意味があると考えております。従来「人権≒自由」と捉えられてきたように思いますが、自由以外の人権の側面を改めて示すことで、山元先生も言及されているように「従来の近代立憲主義的人権概念を乗り越え」る、新たな人権概念を構想する基盤となると存じます。そのため、「個人の自由を制限しうる概念」を「人権」概念に組み込むことには一定の意味があると考えております。

    第二に、人権が個人の自由保障と自由制限双方の正反対な機能を含むと捉えることにより、人権概念が不安定になるとの批判を受ける可能性をご指摘いただきました。筆者は、COVID-19という自然の脅威により、自由を基盤とする従来の人権概念の限界が明らかになっていると考えており、人権の捉え直しが必要であると考えています。そのため、人権概念が不安定になる可能性はありますが、新たな人権概念を検討することで、より包括的な人権概念を構築することができると考えます。

    第三に、前半部分で人権概念の大転換を主張しているのにもかかわらず、後半部分における具体的な考察は、従来の憲法学と大きく変わらないのではないか、とのご指摘をいただきました。本論文の主眼は、日本国憲法の条文を基盤として自由と人権の概念を切り離し、人権概念を捉え直すことにありました。そのため、合憲性判定に関する基準や原則については十分に検討できておりません。人権概念の捉え直しにより、これらの基準や原則を捉え直す必要があるかについては慎重な検討が求められるように思いますが、今後の検討課題とさせていただきます。

    第四に、COVID-19対策とテロ対策は同様に捉えられるか、との論点をご提示いただきました。「おわりに」にも記述しているとおり、本論文は感染症対策における「敵」が、科学的な専門知により認定される自然であると捉えています。従来は、政治的判断が不可避となる人間集団(国家やテロリストを含む)が「敵」として想定されており、COVID-19対策とテロ対策は本質的に異なると考えます。そして、従来想定されてこなかった自然が新たな「敵」となっているため、新たな人権理解の必要性を論じております。テロ対策の捉え方については、今後検討を重ねて参ります。

    第五に、社会的プレッシャーの評価について言及していただきました。この点については、COVID-19対策に法の役割を見出すならば、社会的プレッシャーについては否定的な立場を取らざるを得ません。社会的プレッシャーに法や司法が対応できる余地は限定的だからです。法や司法の意味は、規範が事前に示され、司法による救済の可能性があることだと考えます。社会的プレッシャーについてはこうした法の効果が十分に見込めないため、少なくとも理論的には望ましくありません。とはいえ、曽我部教授、江藤教授の議論にもあるように、日本の社会的現状を踏まえた上で望ましいあり方を模索するのは、極めて重要です。その一方で今後も様々な社会問題が起きる中で、法や司法が十分に役割を果たせる基盤を構築する必要があると感じております。具体的な方法や、その妥当性については大きな論点となりますので、今後の課題とさせてください。

    ご指摘いただきました論点につきましては、今後の論文執筆の参考にさせていただきます。
    貴重なコメントを頂き、ありがとうございました。
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VERSION 2 PUBLISHED 23 Mar 2021
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