産業衛生学雑誌
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運動強度の高い職務訓練参加者に発生したSARS-CoV-2集団感染の実態調査~感染拡大要因の分析と再発防止策に関する検討~
津下 圭太郎小林 翔子宇野 沙央里浦野 友子池戸 まゆみ
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論文ID: 2021-006-E

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抄録

目的:多くの事業体や企業にとって社会・経済活動の継続とSARS-CoV-2感染防止の両立は切実な課題である.我々は緊急事態宣言発令直前に,強度の身体的負荷を伴う特別訓練参加者のSARS-CoV-2集団感染を経験した.感染リスクの高い行為や状況を同定することにより,感染防止対策の改善,適正化を促進する目的で,この事例における感染拡散の詳細な過程を把握するための調査・分析を行った.方法:特別訓練参加者を対象に健康状態や症状の推移と,訓練方法および私生活での行動履歴についての報告記録調査と構造化面接による聞き取り調査を行った.訓練環境を把握するために訓練場の巡視を行い,さらに不顕性感染者を把握することにより,感染の拡散状況をより正確に把握する目的で,接触者の抗体検査を実施した.結果:最初の患者が発症してから10日の間に,継続的な訓練参加者19人中15人が発症し,PCR検査の対象とされた14人は全員陽性であった.発症しなかった4人もPCR検査を実施され,2人が陽性,2人が陰性であった.陰性の2人は,後日実施した抗体検査で陽性であり,不顕性感染であったことが示唆された.加えて初発例の発症日から4日目に1日だけ訓練に参加した5人が,全員発症しかつPCR陽性であった.接触者として抗体検査を実施した64人は,私生活上の接触者であった1人を除いて全員が抗体検査陰性であった.考察と結論:COVID-19の発症は実践形式の訓練開始後に連鎖的に発生しており,実践訓練が感染の主要な要因と考えられた.実践形式の訓練中は換気量増大のためマスク着用が困難であったこと,至近距離での大声の発声が繰り返されたこと,訓練のペアを固定しなかったことが,急速かつ広範な感染の拡散の主要な要因であったと推測される.一方で発声の少ない訓練やデスクワークでは感染伝播は発生しておらず,SARS-CoV-2の感染は,飛沫感染のリスクが高い特定の状況を避けることで,リスクを大きく低減できる可能性があることが示唆された.職場におけるCOVID-19の患者発生時には発症者と接触者の同定や行動履歴の調査を迅速に行い,緊急対策を行うことに加えて,PCR検査,抗原検査,抗体検査等を組み合わせて感染拡散の全容を把握することは,感染防御対策の評価と改善を行ううえで有用な手段である.

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