感染症学雑誌
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原著
感染症指定医療機関職員のSARS-CoV-2抗体スクリーニング検査から考察する感染予防策の有効性―院内感染ゼロへの取り組みとその検証―
谷 直樹南 順也権藤 圭三宅 典子井上 健斧沢 京子鄭 湧池松 秀之下野 信行桑野 博行
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2020 年 94 巻 6 号 p. 821-827

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抄録

新型コロナウイルス(severe acute respiratory syndrome coronavirus 2, SARS-CoV-2)は世界各国同様,日本においても社会的・医療的に大きな問題となり,様々な地域,介護施設,そして病院においてもクラスター発生が報告されている.医療従事者の新型コロナウイルス感染は患者への曝露による感染拡大はもちろん,医療機関として機能が停止することによる周囲の医療機関への負担の増加,ひいては地域医療の崩壊にもつながる.特に感染症指定医療機関においては新型コロナウイルス患者と接触する機会が市中や一般医療機関と比較し極めて多く,院内感染を防ぐために本感染症に対する感染予防策の有効性を評価することは大変重要である.感染症指定医療機関である福岡市民病院の職員のうち,同意を得られた375 名を対象とし,3種類の抗体検査試薬を用いてSARS-CoV-2 抗体を測定した.対象者をCoronavirus disease 2019(COVID-19)患者との接触頻度と業務内容によって規定したリスクで区分し,それぞれの抗体保有率を比較することで院内において患者医療従事者間での感染の有無を調査し,当院の感染予防策を評価した.結果,陽性が否定できなかった職員はCOVID-19 患者と接触機会のなかった1 例のみであり,患者医療従事者間の感染拡大はなく,当院の感染予防策は濃厚な医療行為においてもSARS-CoV-2 感染を予防できる可能性が示唆された.また今回実施された一部の医療資材の再利用に関しても,感染拡大に対する悪影響は明らかにならなかった.今後長期的な感染予防に向け,医療資源の利用可能状況や正確なSARS-CoV-2 の感染様式に応じて,適宜感染予防策を改善していく必要がある.

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© 2020 一般社団法人 日本感染症学会
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